未来の子供たちに青い空を水素エネルギーが開く未来の可能性

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株式会社アツミテックの提案で設置した「水素エネルギーストレージ技術研究チーム」では水素エネルギーの普及を目指した研究を進めています。
チームリーダーの内山直樹さんに、水素エネルギーが普及した「水素社会」をどのように思い描いているのか、お話をききました。

内山チームリーダーが研究について語る姿

– プロフィール Profile –

内山 直樹 UCHIYAMA Naoki, Ph.D.
  株式会社アツミテック 環境技術センター センター長
兼 理研BZP水素エネルギーストレージ技術研究チーム チームリーダー



エネルギー問題の解決を目指して


─ 2015年の国連サミットで採択された国際社会共通の目標であるSDGsにはエネルギー問題の解決が挙げられています。未来のクリーンなエネルギーとして水素エネルギーを耳にしますが、どのようなものか教えてください。

現代の社会では化石燃料と呼ばれる石炭・石油・天然ガスなどを燃焼することで電気・熱・動力といった生活に必要なエネルギーを主に得ていますが、同時に二酸化炭素(CO2)が発生します。これは皆さんもご存じの通り、世界的な問題です。

一方、水素を同じように燃焼させてもCO2が発生せずにエネルギーが得られますので、水素は環境に配慮した魅力的なエネルギー源です。そんな水素エネルギーを有効活用する「水素社会」の実現は国全体で取り組む重要な目標になっています。

─ 水素エネルギーの実用化の状況はどうなっているのですか?

最近は自動車や家庭用燃料電池で水素エネルギーを使った製品を目にする方もいると思います。その点では実用化が進んできていますが、もっと普及させて水素社会を実現するには様々な課題があります。
その一つに「水素をエネルギーとして利用するためにいかに効率良く水素を集めて貯めるか」ということがあって、私の研究チームではその解決につながる新しい材料を研究開発しています。

─ そもそも水素エネルギーに関わるきっかけは何でしたか?

元々は自動車メーカーのホンダの技術研究所で20年ほど研究開発していたのですが、そこでハイブリッド車の開発に携わったのがエネルギーに触れるきっかけでした。水素を意識して研究に関わり始めたのは現在のアツミテックに入社して数年経ったくらいで、2005年のあたりです。その頃は、水素エネルギーを普及させようと大いに盛り上がっていた時期でした。
でも現在では水素エネルギーに取り組む民間企業も絞られていて、水素自動車だけみても世界で数社だけです。
自動車産業でそのような状況ですから、大変な時間と資金がかかるものというのは感じてもらえるかと思います。

内山チームリーダーが過去を振り返る姿

─ そのような厳しい状況でも研究開発をずっと続けられてきたのですね。

現代の文明レベルにおいて、何を作るにしても人類はエネルギーを使う必要があります。
例えば電気自動車はガソリンを使いませんが、作るのには多くのエネルギーを使います。そしてエネルギー源となるのは、ほとんど化石燃料です。火力発電に依存する日本では発電によってガソリン車よりはるかに多くのCO2が排出されていると言われています。

だからと言って、それで直ぐに火力発電を止めてしまっては生活が崩壊してしまいますよね。
私たち研究者は、そうした社会矛盾を研究や技術開発で少しでもクリアしていくのが責任だと思っています。

人間と地球がなるべく長く共存できる環境が大事ですから、エネルギーを使わないというより、なるべく減らすようにしようと考え始めたところが、現在の仕事につながっています。

─ 極端な方向に急には舵をきれませんから積み重ねが大事ですね。現在はどのような研究をされてますか?

チーム名の通り「水素エネルギーストレージ(=水素エネルギーの貯蔵)」の研究で、これはさきほど話した水素社会の実現のための課題の一つですけど、理研が作った特殊な材料がきっかけでした。
理研で面白い技術を開発していまして、グラフィテック・カーボンナイトライド(g-C3N4)*という化学物質を薄い膜にするというものです。しかも、化学物質の分子には配向と呼ばれる矢印のような「向き」があって、普通ではその向きを揃えることは難しいのですが、g-C3N4の向きを揃えることもできます。このように分子がきれいに規則正しく並ぶことで、滑らかな平たいシートができてコンパクトに折りたためるようになった、と考えてください。

グラフィテック・カーボンナイトライドの説明

そのシートには小さなミクロの穴があって、気圧をかけるとその穴に水素がスポっと入ることができます。そして圧力を弱めれば水素が放出されます。そのようなミクロの穴を無数に持ったシートを折りたたんだものを造っていますが、サッカーグランド一面の広さを折りたたんでもわずか1gで済みます。
これを利用すればずっと小さくて軽い水素の貯蔵タンクができますので、「いかに効率良く水素を集めて貯めるか」という課題の解決につながります。
それで興味を持ちまして、これを実用レベルに上げるために一緒に研究するチームを作りましょう、となりました。

─ これでまた一つ「水素社会」の実現が近づくのですね。理想的な水素社会とは、どのようなものですか?

様々な手段があっていいと思っています。水素エネルギーだけというのも無理があるでしょうし、急激に変えることもできません。例えば自動車でも燃料電池で走る車、ガソリンで走る車、色々あってもいいでしょう。
その時代・その場所に適した様々なエネルギー源があっていいのですが、100年後には80〜90%は水素エネルギーというのが理想だと考えています。

実は、水素エネルギー貯蔵の技術を発電所に応用することも目指しています。発電所といっても、大規模な発電所なのか、一つの家庭の発電所なのかでだいぶ変わりますが、5〜10軒の世帯で一つの発電所をもって電気をシェアするのがよいかなと考えています。個々の発電所も全体でみれば大電力をまかなう発電所になります。これは環境にやさしいだけでなく、地震・台風などの災害がおこったときに、電気が止まった場所があっても無事だった発電所から電気を供給できるので、災害に強い街づくりになります。

─ 水素社会は色々な可能性を持っているのですね。

ガスライターのように水素を持ち運べるようになって、コンビニエンスストアで買って日常生活で使う。そんな未来も思い描いてます。
「水素タウン」という構想もあって、自然エネルギーから水素を作りだし、水素を使って地域のすべてのエネルギーを供給するような街です。災害時には水素の発電所をシェアして助け合い、水素エネルギーでドローンが飛んで補給物資を運ぶことができて、それで避難した人がなるべく苦しまない環境を作れたらいいなと思っています。
これは我々だけではできないことで、省庁や他の技術など様々な協力を得て実現したいですね。

─ そういった未来社会が実現すると思うと、未来が明るく感じられますね。

その実現のために、やはり研究者の責任として研究や技術開発で社会矛盾を少しでもクリアして未来の社会に繋げていきたいです。
未来の子供たちに青い空を残したい、そんな思いでこれからも研究を続けていきます。

内山チームリーダーが抱負を語る姿


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