2021年10月20日、より良い社会の実現を目指して理研と企業がバトンゾーンで一体となって取り組む研究について紹介する理研バトンゾーンエキスポ2021を開催しました。
当日はWEBから多くの皆さまにご参加いただき、誠にありがとうございました。
本イベントは二部構成でしたので、2回に渡ってそれぞれの内容をレポートします。
本イベントの第一部では、日本の脳科学の中核拠点である理研の脳神経科学研究センター(CBS)とトヨタ自動車株式会社が一体となって取り組む「理研CBS-トヨタ連携センター」(以下、BTCC)から研究活動が紹介されました。
まずはじめに、國吉康夫 連携センター長よりBTCCの概要について説明がありました。
BTCC設立には「相互の利益のみならず、社会に共に貢献する」という高い理念が掲げられ、脳科学と技術の統合をテーマに14年にわたってさまざまな研究テーマについて理研とトヨタが一体的に取り組んできたことが紹介されました。異なる目的、沿革、文化・伝統を有する対照的な理研とトヨタが共通の目的に向かってお互いに連携することを強く意識して真摯に議論を重ねてきたことが重要な点であったことを述べていました。
次に、トヨタ自動車株式会社未来創成センターの山口雄平氏より、これまでの取り組みについて企業側の視点からトヨタとしてどのような苦悩、反省、改善をしてきたのかについて紹介されました。
最初はお互いの立場を理解することも難しく疑心暗鬼に近い状態から試行錯誤を続けていたというお話でした。そのような状況の中でも、トヨタの中で受け継がれる「研究と創造に心を致し、常に時流を先んずべし」という創始者の訓示を原点として取り組み、徐々にお互いの文化や考え方を理解していくことで意思疎通がスムーズになって連携が強化され、現在ではビジョンから大きな研究方針まで共同で作り上げる関係が構築されたことをお話されました。
続いて、BTCCで取り組んでいる具体的な研究テーマについて、北城圭一 脳リズム情報処理連携ユニットリーダー、下田真吾 知能行動制御連携ユニットリーダー、赤石れい 社会価値意思決定連携ユニットリーダーから発表されました。
北条ユニットリーダーは脳波をツールにした研究に取り組んでいます。脳波の左右の同期が脳卒中や運動麻痺からの回復に重要というお話があり、脳波から心の個人特性を紐解いていく研究が紹介されました。
下田ユニットリーダーは、人の運動制御原理の解明を研究命題として取り組み続けてきました。ロボット制御の研究成果から、筋電(筋肉が動くときに発生する非常に微弱な電気)の測定を利用したニューロリハビリテーションで運動機能を回復させた研究成果などについて解説され、「未知の環境への適応能力」が生物の運動制御に重要であることを紹介しました。
赤石ユニットリーダーは、社会科学などの観点から意思決定について研究しています。人間のWell-Beingを調べるには進化的な視点だけではなく社会や文化的な視点が必要であり、自ら所属する集団を選べる度合い(関係流動性)を実験的に高い状態を作ると、見知らぬ人とでも高い協力度を示すことが確かめられ、この強力の度合いはグループが大きくなるほど上がるという研究成果について紹介がありました。
最後の自由討論では、14年の共同研究の歴史を振り返りつつ、企業とアカデミアとの共同研究を行うにあたって大切なこと、というテーマで活発な意見交換がなされました。
BTCCはWideViewバトンゾーンを実践してきた最も長い研究センターの一つですが、研究者と企業が相互で議論できる関係の構築には時間もかかったものの、その過程にあった葛藤や本音の議論を積み重ねてきたことが非常に大事であり、時には研究方針を一から見直しながら続けてきたことが双方の協力によって大きな成果を生み出す研究センターの礎になったというお話でした。
今後も個人と社会のWell-beingの両立の実現を目指し、理研とトヨタがバトンゾーンで一体となって活動を続けていきますので、ご期待ください。
第二部へ続きます。