バトンゾーンの研究コンセプト
バトンゾーン社会の発展のためのエコシステム
バトンゾーンは、同じ目標に向かって理研と企業が一定の期間を全力で並走する場です。そして目標を達成した後も並走した経験を糧に理研は新たな研究を始めて成果を生み出し、再び次のバトンゾーンにつないでいく発展型エコシステムでもあります。この循環によって研究成果の実用化を継続的が進められ、社会の持続的な発展に貢献することを目指しています。
立場の違う理研と企業が一体となる。
社会の持続的な発展のためには、社会が抱える様々な問題を解決していくことが不可欠です。その解決の糸口として先進的な研究成果には大きな可能性があり、そのような研究成果がベースとなってつくり出された製品やサービスが提供されることは社会にとって大事な役割を持ちます。
しかし、理研は公的な研究機関であるため、自ら製品やサービスをつくり出して社会に提供する立場にありません。そのため実際にそれらを開発して提供を目指す企業と連携すること、すなわち産業連携が必須です。
理研と企業が産業連携に真剣に取り組める環境をつくり、理研の知識・技術・思いを企業が受け取って実用化を目指し責任をもって進める仕組みとして導き出されたのがバトンゾーンでした。
理研は公的な立場から営利活動の企業と基本的に異なる目的を持った存在であり、本質的に企業とは違って研究活動が中心です。しかし産業連携という接点の中では理研と企業は同じ目標を共有することができる場面があり、目標達成に向かって同じ方向を進むことができます。そのような場面では理研が企業にバトンリレーでバトンを渡すかのように一定の期間を共に全力で並走して研究成果の実用化を目指そう、というのがバトンゾーンの原点です。この思想に基づき、バトンゾーンでは理研と企業が一体となって研究活動を行っています。
バトンゾーンから次のバトンゾーンへ。循環による発展。
バトンゾーンは一定の期間において理研と企業が並走する場で、バトンを渡すための仕組みです。目標が達成された後、企業は理研から受け取ったバトンをもとに製品やサービスのための研究開発を続け、社会への提供を進めていきます。バトンを受け取った企業が、また別の企業と連携して製品やサービスを目指すこともあるでしょう。しかし、そこには綿々と受け継がれるバトンがあり、長く厳しい道のりであってもそれぞれが責任を持ってバトンを受け取ってゴールまで走り抜くことができます。
バトンを渡した理研も、それで終わりとはなりません。バトンを企業に渡した後も、企業と一体となって活動したバトンゾーンでの経験は新しい研究テーマを見つける鍵となります。先進的な研究成果を再び生み出せるよう基礎研究を重ねていき、次のバトンゾーンに向かっていきます。そして、また新しい研究成果が社会的課題の解決につながるように理研と企業が一体となって研究活動に取り組みます。
このサイクルを続けてくことで先進的な研究成果の普及が促進され、社会が抱える様々な問題の解決が進み、社会の持続的な発展に貢献することをBZPでは目指しています。
バトンゾーンの実践
バトンゾーンの実践として、現在は3つの研究モデルを運用しています。
一つは、「産業界との融合的連携研究制度=ONE TEAM Baton Zone」です。これは、社会的課題の解決に向けた新しい製品やサービスを生み出すことを目指す企業と理研が一体となって集中的に研究開発に取り組む研究チームを理研に設置するという研究モデルです。理研と企業が一体となって並走する“場”のバトンゾーンとして一つのチームを結成するという思想です。研究チームのチームリーダーとして企業の担当者を受け入れ、理研の研究者はサポートとして副チームリーダーを務めることが大きな特徴となっています。
別の研究モデル「産業界との連携センター制度=Wide View Baton Zone」では、理研と企業が並走する“場”のバトンゾーンとして単体の研究チームではなく、様々な専門を持つ研究者が集まって活動する研究組織(センター)として連携センターを設置します。
イノベーションは社会的意義のある価値を創造して社会に大きな変化をもたらすものですが、科学の新しい知識から生まれるイノベーションは複雑化した社会課題の解決の糸口になると期待されています。しかし、そのようなイノベーションを生み出すことは容易ではありません。長期的な視点が求められますし、様々な研究者が集まり協力して新しい研究分野を切り開き、成果を出していくことが重要です。そのような目標を達成するために理研と企業が一体となって研究活動に取り組むテーマを企業側が提案し、広い視野を持って長期的な研究課題に取り組みます。
もう一つの研究モデルの「特別研究室・特別ユニット=Sharing Baton Zone」では、研究者が積み重ねてきた知識・技術をなるべく多くの企業などに提供し、新規事業を目指す企業の研究開発を支える研究の“場”のバトンゾーンを作ります。このような知識や技術は企業一社で独占する性質のものではないという発想から基本的に複数の企業からそれぞれの目的に沿って特定の研究者との研究内容や指導内容を提案してもらい、共同研究・受託研究・技術指導といった様々な形態を通じて理研の知識・技術を提供します。
バトンゾーンが重視する「暗黙知」
このように3つそれぞれが独自の特徴を持った研究モデルですが、いずれもバトンゾーンとして共通の考え方を持っています。
それは、世界的にも著名な経営学者の野中郁次郎先生(一橋大学名誉教授、カリフォルニア大学バークレー校特別名誉教授)の経営学理論において指摘された「暗黙知」を重視することです。企業と共に並走する“場”となるバトンゾーンは理研が持つ暗黙知を企業に伝えるうえで効果的に機能します。
暗黙知とは言語化して伝えるのが難しい知識体系で、論文や特許のように文章で表された知識体系(=形式知)のように文字を読めば伝わるものではありません。暗黙知には経験に基づく技術ノウハウ・勘・直感・個人的洞察などがあり、実際に製品やサービスを開発するうえでこれらは必要な知識になります。
論文や特許で得られる知識も重要ですが、しかしそれを知るだけでは自分自身で同じことはできないというのが一般的な現実です。例えば、誰かに直接教わるとスムーズにできるようになった、ということは皆さんも経験したことがあると思います。このような経験的な知識は暗黙知一つです。暗黙知の伝達にはお互いに経験を共有するプロセス(共同化)が重要であり、そこに双方が真摯にコミュニケーションできる環境があることは大事な要素です。そのような機会を作るうえで、同じ目標に向かい共に並走する“場”のバトンゾーンはとても有効な手段となっています。
形式知だけでなく暗黙知も共有する。これによってバトンゾーンでは理研と企業の間に強い信頼関係も生まれ、強固な研究の協力体制のもと研究が進んでいきます。
未来に生きる人々が健康で安心に暮らせる世界の実現に向け、社会の持続的な発展に理研が貢献するうえでバトンゾーンは重要な役割を担っています。
産業界との融合的連携研究制度
理研と企業が一体となる研究チームを作り、
社会的課題の解決につながる研究成果の実用化に取り組みます。
産業界との連携センター制度
企業の提案から研究組織(センター)を作り、
広い視野を持って様々な研究に取り組むことで新しい研究に発展させ、
長期的な視点で社会的課題の解決を目指します。
特別研究室/特別ユニット制度
研究者が積み重ねてきた知識・技術をなるべく多くの企業などに提供し、
新しい事業を目指した研究開発を支えるための研究の場を作ります。