「見る」を究める!電子顕微鏡の応用最前線

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理研BZP・理研-JEOL連携センターマルチモダル微細構造解析連携ユニットでは、複数の手段によって多角的に細胞・分子動態を画像化する「マルチモダルイメージング」の技術開発に取り組んでいます。
今回は、従来の電子顕微鏡のイメージを刷新する次世代電子顕微鏡技術をご紹介します。

紹介内容 

  •  広範囲の電顕画像を自動取得
  •  誰もが簡単に電顕画像にアクセスできるプラットフォーム開発
  •  超微形態情報にフォーカスした新機軸のオミックス解析


研究コンセプト

顕微鏡は医学・生物学研究に必須のツールですが、中でも電子顕微鏡は超微構造を可視化でき、これまでに非常に多くの事象を明らかにしてきました。一方、近年の生命科学研究では遺伝子やタンパク質、代謝物などを網羅的に解析する「オミックス解析」が脚光を浴びており、電子顕微鏡での観察は少し古い研究手法と思われている節もあります。しかし「百聞は一見に如かず」の言葉通り、実際に「見る」ことは科学研究の本質的・中心的手法であることに疑いはなく、私達は電子顕微鏡の持つポテンシャルを最大化する技術の開発を目指しています。

研究成果

1.広域電顕画像の自動取得システム
これまでの電顕画像は高い拡大率で数μm2程度の範囲しか撮像できませんでしたが、私達は数mm2の範囲を網羅する高拡大画像の取得システムを開発しました(図1左、中央)。

【図1】

私達が開発したシステムでは電子顕微鏡内のステージを少しずつ動かして次々に画像を撮影し、これらを繋ぎ合わせて大きな画像を作ります。ポイントは隣り合う画像が少しだけ重なるように撮影する点です。重なりを設けることで隣り合う画像を正確に繋ぎ合わせることが可能となりました。
 

2.簡単にアクセスできる専用プラットフォーム
1枚の広域電顕画像のサイズは数十~数百GBにもなり一般のコンピュータで扱うことが難しくなります。そこで画像情報を専用サーバで一元管理し、オリジナルビューアーで閲覧する専用プラットフォームを開発しました(図1右)。これにより一般のコンピュータ端末からでもインターネットを介して広域電顕画像に簡単にアクセス可能となりました。
 

3.超微形態情報にフォーカスした新たなオミックス解析
広域電顕画像は数百~数千の細胞とその細胞小器官などの情報を含んでおり、それ自体が「超微形態情報のビッグデータ」です。これを人間の「目」や「手」で評価するには大変な労力と時間を要するため、人工知能(AI)による自動解析技術を開発しました。この技術により超微形態にフォーカスした新しいオミックス解析【ミクロモルフォミクス】が可能となりました(図2)。

【図2】


このような研究成果により、今後はミクロモルフォミクスと従来のオミックス解析とを統合したマルチオミックス解析が進められ、細胞形態と遺伝子発現や代謝等との関係のより深い理解が期待されます。また、電顕画像が科学分野の垣根を越えて共有されることにより電顕の新たな応用手段の創出等も期待されます。

窓越しに笑顔の男性

理研BZP 理研-JEOL連携センター
マルチモダル微細構造解析連携ユニット
片岡 洋祐 ユニットリーダー

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